私たちは、「一人ひとりのメンタル・ウェルビーイング」を育むことのできる社会を実現するため、我が国初の全世代型メンタルヘルスプラットフォームの開発と全国実装を掲げ、国立研究開発法人科学技術振興機構(以下、JST)が運営する共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)において、令和4年度共創分野・育成型の研究拠点に採択されました。

本拠点では、思春期を主とした若年者のメンタルヘルスに焦点を当てつつ、いつでもどこでも誰でもアクセス可能な全世代型メンタルヘルスチェックシステムを開発すると共に、ユーザーコミュニケーションシステム、教員のサポートシステム、市民・患者参画システムをも備えたわが国初の全世代型オンラインメンタルヘルスプラットフォーム(KOKOROBO-J)を日本全国で利用可能にします。これにより、日常的にメンタルヘルスケアを行うことが当たり前の社会を実現し、個々のメンタル不調を予防し、メンタル不調を早期に手当てすることで、「一人ひとりのメンタル・ウェルビーイング」を育むことのできる社会を実現します。

JST共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)は、大学等が中心となって未来のありたい社会像(拠点ビジョン)を策定し、その実現に向けた研究開発を推進し、プロジェクト終了後も、持続的に成果を創出する自立した産学官共創拠点の形成を目指す産学連携プログラムです。当拠点では、第一生命保険株式会社を筆頭に、複数の企業、大学、特定非営利活動法人(NPO)、自治体と連携して社会実装を進めます。

メッセージ

プロジェクトリーダー(PL)
メッセージ

国立精神・神経医療研究センター 竹田和良

竹田和良

国立精神・神経医療研究センター
医師

はじめまして。本拠点のプロジェクトリーダーをしております国立精神・神経医療研究センターの竹田と申します。

皆様、「メンタルヘルス」と聞いて、どのようなイメージを持たれるでしょうか。以前に比べますと、メンタル不調やうつ病、不安障害などは、社会の中で認知が高まり、メンタル不調や精神疾患についての情報が得られるようになりました。一方で、「メンタルヘルス」については、メンタル不調や精神疾患の予防といったイメージが強いのではないでしょうか。

世界保健機関(WHO)のメンタルヘルスの定義は、「人が考え、感じ、行動することと関係し、日常のストレスをやり過ごし、人と関わり、自分らしい選択をする「バランスのとれた状態」」となっています。つまり、単に病気の予防を意味するのではなく、社会の中で、他者と関わりつつ、自分らしく生活できる能動的で意欲的な(自律的な)精神状態」を指します。WHOでは、このような状態を「メンタル・ウェルビーイング」の状態と説明しており、本拠点では、将来のありたい社会像として、一人ひとりの「メンタル・ウェルビーイング」を育むことのできる社会を実現します。

そのために私たちは、2つのことが必要だと考えました。1つ目は、(1)「誰もが生涯において、1度はメンタル不調を経験する」ことを広く皆様に知って頂くことです。2つ目は、(1)を踏まえて、(2)「メンタルヘルスケアが当たり前の社会」を実現することです。

  • (1)誰もが生涯において、1度はメンタル不調を経験する

    有名なニュージーランドの出生コホートであるダニーデンコホートでは、18歳までに59%が、45歳までに86%が、精神疾患の診断基準を満たすことを明らかにしています。他の疫学研究でも概ね同様の結果が報告されています。この結果は、人生の前半において、9割の方が、メンタル不調を経験すること、一生涯で考えれば、誰もがメンタル不調を経験することを示しています。自分は関係がないと感じることが多いかもしてれませんが、メンタル不調は、現実には、すべての人に生じるのです。これが常識として個人、そして社会に浸透することが、必要不可欠だと感じています。

  • (2)「メンタルヘルスケアが当たり前の社会」の実現

    一人ひとりの「メンタル・ウェルビーイング」を育むことのできる社会を実現するには、(1)を常識になるよう、個人、社会に浸透し、(2) メンタルヘルスケアが当たり前の社会」を実現することが不可欠と感じています。常識として理解し、その対策として、メンタルヘルスケアを当たり前のこととして、個人、社会に浸透する事が重要です。これにより、メンタル不調の予防、不調の早期対応が可能となり、ありたい社会像を実現できると考えています。

以上、 (1)(2)を実現するために必要なことを参画メンバーで議論し、整理して、10年20年度のありたい社会像(拠点ビジョン)を策定しました。

拠点ビジョン

拠点の目指すもの

こどものときから、時代に応じたメンタルヘルスケアを日常的に実践し、ほどよく人とつながることで、一人ひとりのメンタル・ウェルビーイングを育むことができる社会文化の形成。

私たちは、(1)「誰もが生涯において、1度はメンタル不調を経験する」ことを広く皆様に知って頂き、(2)「メンタルヘルスケアが当たり前の社会」を実現するため、上記の拠点ビジョンを作成し、これを実現するための研究開発を行います。

具体的には、思春期を主とした若年者のメンタルヘルスに焦点を当てつつ、いつでもどこでも誰でもアクセス可能なメンタルヘルスチェックシステムを開発すると共に、ユーザーコミュニケーションシステム、教員サポートシステム、市民・患者参画システムをも備えたわが国初の全世代型メンタルヘルスプラットフォーム(KOKOROBO-J)を開発、効果検証し、日本全国で利用可能にします。

ビジョンの社会背景

諸外国と比べ、我が国では種々のサービスが提供されていますが、メンタルヘルスサービスへのアクセスが十分でなく、必要な人に必要な情報が必要な時に容易に届かないことが課題とされます。こうした背景の中で、新型コロナ感染症が流行し、特に思春期で、うつ病、不安障害が増加し、2020年小中高生の自殺者も過去最大となり、その後も増加しています。子供の精神的幸福度(こころの幸福度)は、OECDに加盟する先進国の中で37/38番目と極めて低く、身体的幸福度がOECD加盟国中1位であるのと対照的であり、若い世代へのメンタルヘルス対応が不可欠となっています。

加えて、イギリスの出生コホートでは、思春期の内発的価値(自律的で興味や関心に基づいた自律的行動)の高さが、高齢期での主観的満足度の高さと関連し(J Positive Psychol, 2020)、将来にも影響を及ぼすことことから、思春期のメンタルヘルスの重要性が増しています。

運営体制

現時点(2023.11)で、大学等21機関、企業等18社、NPO等(6団体)、自治体・教育委員会(14)による、産学官共創拠点の強化を行っています(近日、更新予定)